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「ダブックウ」ひょうりゅうき

「太平洋漏水孔」漂流記

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1940(昭和15)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,264 字 · 37 页

青空文庫

いま、その“Cohoba”の妖しい夢のなかで、独木舟は成否を賭け飛沫をあびながら走っている。

それから、渦中をゆくことなん時間後のことだろう。ふと、外界が朦朧と見えてきたと思うと、頬にあたる熱気の感じがちがう。オヤッ、と、キューネがふと横をむくと、舟は、大岩礁に桁先をはさんで停っている。

島だ――と彼は歓喜の声をあげた。独木舟はついに湿熱環を突破し、緩和圏中の一島についたのである。

*

折竹は、そこまで話してふと口を休めた。そして、隣室から手紙のようなものを持ってきて、

「これからは、キューネの手紙を見たほうがいいだろう。簡単だが、僕の話よりも切々と胸をうつよ」

という。

*

その島は、周囲八マイルもあるだろうか。ながらく外海と絶縁していたため、ひじょうに珍らしい生物がいる。その一つが、“Sphargs”だ。鳴く亀である。亀が声を発するとは伝説だけであろうがいま、「太平洋漏水孔」のこの島のなかには歴然とそれがいるのだ。そいつは、ガラバゴス島の大亀ほどの巨きさで、四、五百ポンドの巨体をゆすりながら愛らしい声で鳴く。私は、肉も食ったが、ひじょうな美味だ。