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かのうせいのぶんがく

夫婦善哉

織田 作之助

織田作之助『夫婦善哉』。同一底本的分册已合并为一书。收入:可能性の文学、勧善懲悪。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,834 字 · 94 页

青空文庫

そのように体裁だけはどうにか整ったが、しかし、道修町の薬種問屋には大分借りが出来、いや、その看板の代金にしたところで……。そんな状態ではいくら総発売元と大きく出しても、何程の薬をこしらえてみても、……しかも、その薬にしたところで、そろそろ警戒しだした問屋からは原料がはいらず、「全国」どころか、店での小売りにも間に合いかねた。

そこで、考えた丹造は資金調達の手段として、支店長募集の広告を全国の新聞に出した。

「妻子養うに十分の収益あり」という甘い文句の見出しで、店舗の家賃、電灯・水道代は本舗より支弁し、薬は委託でいくらでも送る。しかも、すべて卓効疑いのない請合薬で、卸値は四掛けゆえ十円売って六円の儲けがある。なお、売れても売れなくても、必ず四十円の固定給は支給する云々の条件に、申し分がなく、郵便屋がこぼすくらい照会の封書や葉書が来た。

早速丹造は返事を出して曰く、――御申込みにより、貴殿を川那子商会支店長に任命する。ついては身元保証金として、金六百円を納められたい。――活版刷りの美麗な辞令だった。

そして、待機していると、世間は広いものだ。一生妻子を養うことが出来れば、六百円の保証金も安いものだと胸算用してか、大阪、京都、神戸をはじめ、東は水戸から西は鹿児島まで、ざっと三十人ばかりの申し込みがあった。