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めおとぜんざい

夫婦善哉

織田 作之助

「海風」1940(昭和15)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,643 字 · 61 页

青空文庫

種吉は氷水を註文に行った。

銀蠅の飛びまわる四畳の部屋は風も通らず、ジーンと音がするように蒸し暑かった。種吉が氷いちごを提箱に入れて持ち帰り、皆は黙々とそれをすすった。やがて、東京へ行って来た旨蝶子が言うと、種吉は「そら大変や、東京は大地震や」吃驚してしまったので、それで話の糸口はついた。避難列車で命からがら逃げて来たと聞いて、両親は、えらい苦労したなとしきりに同情した。それで、若い二人、とりわけ柳吉はほっとした。「何とお詫びしてええやら」すらすら彼は言葉が出て、種吉とお辰はすこぶる恐縮した。

母親の浴衣を借りて着替えると、蝶子の肚はきまった。いったん逐電したからにはおめおめ抱主のところへ帰れまい、同じく家へ足踏み出来ぬ柳吉と一緒に苦労する、「もう芸者を止めまっさ」との言葉に、種吉は「お前の好きなようにしたらええがな」子に甘いところを見せた。蝶子の前借は三百円足らずで、種吉はもはや月賦で払う肚を決めていた。「私が親爺に無心して払いまっさ」と柳吉も黙っているわけに行かなかったが、種吉は「そんなことしてもろたら困りまんがな」と手を振った。「あんさんのお父つぁんに都合が悪うて、私は顔合わされしまへんがな」