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めおとぜんざい
夫婦善哉
織田 作之助
「海風」1940(昭和15)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,643 字 · 61 页
種吉の手に五十円の金がはいり、これは借金払いでみるみる消えたが、あとにも先にも纏まって受けとったのはそれきりだった。もとより左団扇の気持はなかったから、十七のとき蝶子が芸者になると聞いて、この父はにわかに狼狽した。お披露目をするといってもまさか天婦羅を配って歩くわけには行かず、祝儀、衣裳、心付けなど大変な物入りで、のみこんで抱主が出してくれるのはいいが、それは前借になるから、いわば蝶子を縛る勘定になると、反対した。が、結局持前の陽気好きの気性が環境に染まって是非に芸者になりたいと蝶子に駄々をこねられると、負けて、種吉は随分工面した。だから、辛い勤めも皆親のためという俗句は蝶子に当て嵌らぬ。不粋な客から、芸者になったのはよくよくの訳があってのことやろ、全体お前の父親は……と訊かれると、父親は博奕打ちでとか、欺されて田畑をとられたためだとか、哀れっぽく持ちかけるなど、まさか土地柄、気性柄蝶子には出来なかったが、といって、私を芸者にしてくれんようなそんな薄情な親テあるもんかと泣きこんで、あわや勘当さわぎだったとはさすがに本当のことも言えなんだ。「私のお父つぁんは旦さんみたいにええ男前や」