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うしなわれたはんしん

失われた半身

豊島 与志雄

「ユニヴァーシティー No. 2」1949(昭和24)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,545 字 · 21 页

青空文庫

無邪気な明るい性質で、おれは彼女を誘って、なんどか、映画を見たり、コーヒーを飲んだりしたことがある。同窓の婦女子を誘惑してはいかん、と嘗て誰かが皮肉ったことがある。誰だったかおれはもう覚えていないほど、彼女に対するおれの気持ちは淡々たるものだった。ただ、映画を見るにせよコーヒーを飲むにせよ、独りよりは、或は男の友人と一緒よりは、若い女と共にする方が楽しい気分になれる日も、往々あるものだ。その永田澄子が、戸川の話によれば、肺浸潤かなんかで、可なり重態らしいとのこと。そこで、同学の女の学生に敬意を表して、お見舞に花でも贈りたいと思うが、どうだろうと戸川は顔を少し赤らめて言うのだった。

おれはあぶなく笑い出しそうになった。戸川に敬意を表してウイスキーを、そしてこんどは、女学生に敬意を表して花束か。然し、次の瞬間、おれはむかむかっと不愉快になった。

「たかが一人の女学生が、病気になろうと、どうしようと、構わんじゃないか。感傷は捨てるんだ。ほっとくんだね。」

そしておれは、ウイスキーを、グラスにではなくコップに二つ求めた。

戸川はおれの様子を怪訝そうに眺めていた。