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きだんクラブ〔せんごばん〕

奇談クラブ〔戦後版〕

野村 胡堂

08 音盤の詭計

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,161 字 · 26 页

青空文庫

向島の金山荘に集ったのは、何時もの顔触れで、佐瀬弁護士も、明日はお聟さんになる筈の森川森之助も来ておりました。ミスからミセスになるのではありませんが、兎も角今宵限り国府未亡人の古い着物を脱ぎ捨てて、明日は森川夫人になるのですから、この別れの会は、なかなかに意味の深いものでした。

一とわたり御馳走が済んで、別室に退いてお茶が始まった時、私は、

「さて皆様、か様な席上に持出すのは、甚だ無躾で相済みませんが、明日は森川夫人になられる鈴子さんに、国府未亡人の最後の思い出として、金弥老人の吹込み遺した、レコードをお聴かせしようと思います」

「――――」

一座は思わずシンとなりました。このお別れの席とはいうものの、間違いもなく歓楽の席上に、死んだ老人の声などを聴かせるのは、不都合千万な物好きと思った様子です。

「それは意義のあることだ。是非承わり度い。あのレコードは何処の国語か知らないが、望月君の翻訳で聴くのも一段ではないか」

そう言ってくれたのは明日は花聟になる森川森之助でした。

「では」

私は玄関に置いて来た手提の蓄音機を取寄せると、卓の上に据えました。まことに古風な機械ですが、逆に廻転するように急に設計さしたもので、これでも精一杯の細工です。