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おくさんのいえで

奥さんの家出

国枝 史郎

「新青年」1927(昭和2)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,851 字 · 28 页

青空文庫

……だが、何うにも、理由無しに、こんなに可笑しいのは何故だろう?」

が、すぐ私は後悔した。

札が釣るされていたからである。

「寄贈者、名古屋市東区武平町三丁目、

鶏十五羽、殿村絹子殿」

鳥小屋に釣るされてあったのである。

「ああ然うか」と胸に落ちた。「綺麗なお嬢さんか、綺麗な奥さんか、兎に角一人の善良な婦人が、この家鶏を寄贈したのだ。この遊園地の経営者が、買って飼っているのでは無かったのだ。寄贈品なら文句は無いさ」

そこで私は改めて、兎だのモルモットだのの檻を見た。

兎の檻にもモルモットの檻にも、寄贈者の名が記してあった。

「みんなみんな寄贈品なのか。いや大変結構だ、いや実際名古屋市には、動物を愛し遊園地を愛する、善良な婦人が多いらしい」

――それに反して俺の奥さんは、俺をすてて、家出をして了った!

「ねえ、お嬢さん」と話しかけた。「コテン、さいさい、アッアッアッ……こう云って家出をしましたので、彼女――私の奥さんですがね。詳しくお話しいたしましょう」

で私は話しつづけた。

だが充分用心して、東の方へ向かなかった。

狙っているということを、ちゃんと知っていたからである。