轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

おくのうみ

奥の海

久生 十蘭

「別冊週刊朝日」1956(昭和31)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,005 字 · 26 页

青空文庫

金十郎は人生のオリジナルな問題に触れることを避け、人間の愛憎のかからぬところで、自分一人で暮していたが、その罰で、善悪も、ときには深く人を傷つけることがあるという、簡単な愛の論理すらわからないようになってしまった。

金十郎はいちどは手の中にあった、大切なものを取り落したことに気がついて愕然とし、石切れから、お暇勝手次第の触れが出たのを幸いに、御役ご免を願い、すぐにも陸奥に下るつもりで、そうそうに江戸へ帰った。

父の顔も見るや見ずで、江戸を発ったのが六月の十日。千住の橋詰に関所ができ、江戸へ流れこもうとする難民の大群を、十人ばかりの番士が、

「江戸に米はない。帰れ、帰れ」

と必死になって押しかえそうとするが、相手は逆上しているので、なにを言っても通じない。前側にいるのを、とっては投げ、とっては投げしているうちに、川端にかがみこんでいた二百人ばかりの一団が、

「お願い、お願い」

と連呼しながら、道幅いっぱいになって押しだしてきた。

番士は棒先をそろえて防いでいたが、そのうちに、手にあわなくなって刀を抜いた。難民は波がひくようにうしろに退ったが、すぐまた、お願い、お願いと哀訴しながら押してくる。