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おくじょうねんだけのぜってんにたつき
奥常念岳の絶巓に立つ記
小島 烏水
「中學世界 第十卷第七號」博文館、1907(明治40)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,541 字 · 11 页
こと七、八峰、峰は皆磐石を畳んだもので、石は皆裂け、偃松と、岩ぶすまという地衣が布いているばかり、この方面から常念を望むと、前の婉容はなくなって、見上げるように急峻に尖っている。
これらの石は皆雨に晒され、火に打たれた断片である、壊敗の形骸である、しかも血を踏まざる自然の零落は、未だ死んだこともなければ、朽ちたこともない、之を荒廃、寂莫、零落と呼べばとて、誰か彼等より、不死の性を奪う権力をか授けられたる、偉大なるは常念岳である。
常念の頂に佇んだときの自分は実にこう思ったのである、自然というものは、自分の感じた通りに現われもし、動くものであると、自然の自由とは、即ち自分の感じ得る自由である、我はこの山脈に分け入って、昨は月の清光を浴び、きょうは雲漫々たる無限を踏む、我といえる一個体、一霊魂、一可燃性の存在を許して我を通過して観ぜしむる宇宙は存外小さいものではあるまいか。
どうせ最後は静粛なる自然の中に葬られるにしても、少くとも山上の自分は、ゆうべ小舎の中で微小なる鼠一疋に恐怖した自分ではなかった。