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おんなとぼうし
女と帽子
豊島 与志雄
――「小悪魔の記録」――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,614 字 · 33 页
目玉も底が濁っています。顔全体が、表皮の一重下に、蝋でもぬりこんだようですよ。然し、それで思い通りじゃありませんか。実際、あなたの計画には私も驚嘆しましたね。
ほんとは、波江さんに惚れてたんじゃありませんか。いい加減に白状なさいよ。え、よく分らないって、それだから、その煮えきらないところが、嫌んなっちゃうというんですよ。私が筋途立てて説明してあげましょうか。
はっきり云いますよ。波江さんは福岡の料理屋の娘だ。だからそのお父さんは料理屋の主人だ。その料理屋の主人が政治に頭をつっこんで、市会議員になり、更に代議士になろうとの野心を起した。そのため大変金がいる。そこへ、金持の黒川さんが、娘の波江さんにひっかかってきた。波江さんのお父さんに異議のあろう筈はない。波江さんは、無理に、だかどうだか分らないが、とうとう口説き落されて、二十も年齢のちがう黒川さんのところに、而も後妻に、嫁にいった。するうちに、黒川さんの放蕩は次第に露骨になってくる、実家は政治関係の負担で、破産に近い状態となり、黒川さんにも可なりの迷惑をかける。そんなこんなで、波江さんは福岡から東京に出奔してきた。