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おんなけんし

女剣士

坂口 安吾

「小説新潮 第八巻第八号」1954(昭和29)年5月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,694 字 · 74 页

青空文庫

結局彼は心を決した。このような時には山へこもるべきである。浮世の風がわるいのだ。山中には剣しかない。

そこで朝之助は存八に留守を託し、歌子をつれて山中へ苦業にでることにした。出発に際して存八と寺田をよび、

「さて留守中には両名とも怠らず剣を学び技を争い、自得するところあるように心がけるがよい。いずれかの剣に見るべきものがあれば、歌子のムコに致す所存であるから、それを励みに勉強せよ」

こう約束して旅立った。

この約束はよくなかった。朝之助は自分の言葉に縛られる男なのである。思いが心にあって、まだ発しないうちはよい。それが発してしまうと、それはもう金鉄なのだ。火もそれを熔かすことのできない力なのだ。法よりも強い約束なのだ。

こう約束してしまった以上、すでに歌子を二人のいずれかに与えたも同然だ。どうしてもそれを実行しなければならない。そして言葉の発せられた瞬間から、すでに約束をせまる力に苦しまなければならなかった。

その苦悶は歌子への恋慕の情をいやが上にもかきたてた。彼は山中で剣をふっても、そこには力がこもらない。剣はウツロであった。かたわらの歌子という女の存在に圧倒され、息がつまってしまうのだ。