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おんなけんし
女剣士
「小説新潮 第八巻第八号」1954(昭和29)年5月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,694 字 · 74 页
彼の心はふくよかだった。家に近づく一足ごとに自信が力強くよみがえってくる。まさかこの山奥からポッと出の田舎教師が東京の郵便局を襲ったとは思いつく者があるまい。むろん郵便局のヒキダシにも手さげ金庫にも指紋は残してきたが、磁石じゃあるまいし、それがこの山中を指し示すことはありっこない。彼は自信マンマンだった。
家へ戻ると、盗んだ金とピストルを秘密の場所に隠しこんだ。少くとも今後の何ヶ月間はこの金が自宅のどこにも存在しないと自ら思いこんでしまうことがカンジンだ。
その晩は熟睡したが、早朝には習慣通り目がさめた。彼は躊躇なく跳ね起きた。あのバカ者は例によってすでに今日の猛練習をはじめたころだ。ひとつ、からかってやろうと思った。稽古着に着かえて道場へでかけた。バカ者は朝の千本をふり上げふり下している真ッ最中だ。
「よう。師範代。やってるな」
しかし存八は答えない。いつもの例だ。千本が終るまでは相手にならない。
その日は寺田も自信があった。念願を果した自信、そして快感。それが郵便局の豪傑の急所に見事な一撃を与えたときの手ごたえに変形してよみがえってきた。その力は今や彼の全身にみなぎり、何物をも打ち砕くために破裂しそうだ。