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おんなけんし

女剣士

坂口 安吾

「小説新潮 第八巻第八号」1954(昭和29)年5月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,694 字 · 74 页

青空文庫

タダモノの姿とは見えないから、存八も一見気オクレを感じ、足がすくんで近くへ進めない。

「物売りは用がないぞ」

「いえ、ワタシは物売りじゃないんで。足立の旦那から伺って参りましたが、こちらで下僕を求めていらッしゃるそうで」

「おお、そうだ。キサマが下僕か」

「へ、もう、そうです」

「ちょうど、よい。こッちへこい。なんだ、それは」

「鍋釜の世帯道具で」

「財産家だな。キサマその槍をとって、娘にかかれ」

「槍でどうするんで」

「娘をつくのだ。キサマ槍を使ったことがあるか」

「ありませんねえ」

「なお面白い。なかなか槍は突けないぞ。横にふりまわしても、上から叩きおろしてもよろしいから、存分に娘にかかれ」

「こまったねえ」

「おそろしいか」

「いえ、お嬢さんに悪いんで。ケガでもさせちゃア」

「バカ。存分にやれ」

娘は立ってハチマキをキリリとしめていた。白い稽古着に緑の稽古バカマ。タダモノではないと見たのはこの姿のせいであったに相違ないが、さて立上った娘の姿の雄大さには存八もキモをつぶしたのである。

五尺五寸は充分にある。五尺二寸の存八よりも三四寸は大きいのだ。山で働くお作の姿も見事で、その素足なぞこれぞ造化の妙と存八は思ったものだが、この娘には遠く及ばない。