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にょきゃくいっしゅうかん

女客一週間

豊島 与志雄

「新潮」1931(昭和6)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,724 字 · 26 页

青空文庫

隙さえあれば、彼女にせがむ。島村も時々、その集まりの仲間にはいった。静かな晩、電燈の光がやさしい明るみを投げている。ランプか蝋燭でもともしたいような光景だ。子供たちは熱心に耳を傾けている。キミ子は一生懸命に飜訳して話している。ゆるやかな美しい声だ。言葉につかえると、頭をかしげて一寸考える。短い髪の毛がさっと揺れる。それでもなお言葉にまごつくと、困ったような無邪気な眼を大きく挙げて、朗かに笑いだす……。

それは全く、彼が知っているバーの女給ではなかった。不意に闖入してきた客だ。そしてすぐに、家族の一員になりすましている。女中たちとも仲がよく、子供たちとも仲よしだ。だが、キミ子、それも本名だかどうだか分らないし、姓は尋ねても、笑って答えない。或る時、彼女が子供たちに話してる言葉を、彼は蔭から聞いたことがある。――「日本人同士は、名前の方が親しみがあっていいのよ。豊臣秀吉は、秀吉、加藤清正は、清正……。豊臣といったり加藤といったりする人はないでしょう。藤原鎌足や菅原道実だって、鎌足や道実で、藤原だの菅原ではないでしょう。東郷平八郎だって、もっとたつと、東郷大将じゃなくて、平八郎になってしまうわよ。