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おんなごころのつよければ

女心の強ければ

豊島 与志雄

「女性改造」1950(昭和25)年8月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,011 字 · 94 页

青空文庫

あの晩たしか幾個食べたから、まだ幾個残ってるはずだ……。

自分で気がついてみると、これは滑稽を通りこして浅間しかった。このようなことをよくも考えめぐらしたものだと、驚かれるのだった。たとえ正確に計算出来たとしても、鮑や栄螺のたぐい、売ってる店はあるだろうし、いつでも、買えるだろう。ばかばかしいことだ。また、あの残りを彼女が柿沼に食べさせようと食べさせまいと、そんなことにいったい何の意味があるか。

一種の嫉妬であったろうか。嫉妬には灰汁の苦さと蜜の甘さがあるものだが、それがなかった。

長谷川は朝食がおそく、昼食をぬきにして、夕食をとる。その給仕は、本館から来る女中がすることもあり、千代乃がすることもあった。だが彼はむしろ、独りでゆっくり食べることを好み、千代乃を階下へ追いやった。

「分ってるわ。気になさらないでね。」

千代乃の態度には、何のこだわりも見えなかった。それが却って、長谷川には物足りなかった。

千代乃ばかりではなく、松木にせよ、柿沼にせよ、ほとんど長谷川を眼中に置いてないかのようだった。他の来客と一緒に、酒宴をし、高笑いをした。それが実は、当然だったとも言えよう。