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おんなごころのつよければ

女心の強ければ

豊島 与志雄

「女性改造」1950(昭和25)年8月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,011 字 · 94 页

青空文庫

長谷川は前に見かけたことがあるので、柿沼治郎だと分った。

「死んでいますね。その辺に置いといて下さい。あとで片付けさせましょう。」

全く無関心な、冷やかな調子だった。

長谷川は山鳩の死体を庭石の上に置き、手を打ち払い、本能的に煙草を浴衣の袂にさぐったが、無かった。

柿沼は縁側に煙草盆を持ち出した。

「さあ、どうぞ。」

招ぜられるまま、長谷川はやって行き、煙草を一本取り上げた。

「毎日、御勉強のようですね。」

「いや、つまらん仕事です。」

「御挨拶もしませんでしたが、少し、お邪魔だったでしょう。今日、午後、たちます。あとはまた静かですから、ゆっくり御逗留なすって下さい。」

事務的に響く淡々とした調子だった。

その時、長谷川は、後々まで残る深い印象を受けた。――山鳩の死体をぶらさげてた自分の滑稽な恰好。遠くから視線を交わしたことはあるが、初めて近々と出会ったのにしてはおかしな対話。それらのことをも忘れるほどの印象なのだった。

柿沼は背がやや低い方で、頸は短く、肉付きは逞しく緊っており、五分刈りの頭は大きく見え、顔は浅黒く、鼻の太い丸顔……まあ普通に見かける事業家のタイプだった。