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おんなごころのつよければ

女心の強ければ

豊島 与志雄

「女性改造」1950(昭和25)年8月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,011 字 · 94 页

青空文庫

そのような便利な道具があったら、面白いでしょうね。」

皮肉な影が眼に浮んでいた。

「宿屋のお上さんに、丁度いい。女中頭に、丁度いい。病気の女房代りに、丁度いい。お妾さんに、丁度いい。第二夫人に、丁度いい。別荘番に、丁度いい。何にでも役に立って、便利なんだわ。」

顔をきっと挙げて、まともに長谷川を見た。

「長谷川さん、あなたまでが、情婦に丁度いい、なんて言ったら、承知しないわよ。」

言葉はヒステリーみたいだが、調子は少しふざけていて、眼にはまだ皮肉な影があった。

長谷川もそれに応じた。

「それじゃあ、千代乃さん、色男に丁度いい、なんて言ったら、僕も承知しませんよ。」

「承知しないで、どうなさるの。」

「殺してしまう。」

「そんなら、わたしも、あなたを殺そうかしら……。」

「ええ、どうぞ。」

「死んで下さる?」

「殺されたら、死ぬより外はないでしょう。」

「そうね、殺されたら死ぬより外はない……。」

突然、一陣の風のように、真剣な気合が流れた。

「誓いましょう。」

彼女に応じて、長谷川が手を差し出すと、その五本の指を、彼女は力一杯に握りしめた。

「痛い。」

長谷川は手先をうち振った。