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おんなごころのつよければ
女心の強ければ
豊島 与志雄
「女性改造」1950(昭和25)年8月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,011 字 · 94 页
兄は私に、「お前は長谷川さんに誘惑されたんじゃあるまいね、」と言いました。私は昂然と、「誘惑したとすれば、わたしの方でしたのです、」と答えてやりました。私はひとから誘惑されるほど、主体性とかを喪失してるつもりではありません。
けれども、長谷川さん、あなたを失ったら、私はもう生きてゆけない気持ちがします。
このへんで、なんだか、筆が乱れかけてきそうです。ちょっと煙草でも吸って、気を落着けることにしましょう。お酒は一人では飲みませんのよ。爺やの辰さんこそ、一人でお酒を飲んで、もうさっきから、あちらで眠っております。あなたは今頃、どうしていらっしゃるかしら……。
さて、兄のことですが、私がこちらへ来てから、一週間ばかりして、兄も帰って来ました。常子さんの葬式は済み、無駄になった私の喪服を持ち帰ってきました。
この喪服の荷物について、兄は先ず私に不平を言いました。それから、なぜ柿沼さんの葬式に行かなかったのかと尋ねました。言葉の調子は静かでしたが、言葉よりも眼つきで、じろりじろりと私の様子を窺っています。その態度が、私を苛ら苛らさせました。しかし、私はじっと虫を殺して、平気を装い、お葬式には行かないでもよいと思ったと答え、もう東京にも倦きたから帰って来たと答えました。