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おんなごころしゅうい

女心拾遺

矢田 津世子

「文学界」1936(昭和11)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,514 字 · 36 页

青空文庫

箸と命じられれば茶碗を、下駄と言付けられれば、草履を揃えておくという風である。この呆んやりが家人の眼には愛嬌に見える。唐沢氏などは、

「滑稽な奴だ」

と腹をかかえて笑う時があった。

ものを云う時、舌をちょろつかせて甘えるようにするおしもの顔がいかにも子供子供していて可愛く、つい、それにほだされた夫人は、時折り、お春に隠してこっそりと帯〆だの半襟のような小物を買うてやるのだったが、いつからか、この内証事が娯しみになって、買物といえばおしもを供につれて出かけるのが慣しになり、常着類の柄模様を自分から見立ててやって、おしもの肩に掛けさせ、眼を細めて眺めている容子はいかにも満足気である。このような内証事は、夫人にとっては一種の道楽のようなものであった。

そのうち、おしもは、女中というよりは娘分に近い扱いをうけるようになって、麻雀卓子の出るたびに仲間へ加えられる。老年に入ってからの唐沢氏は、暇潰しにこんな遊びを始めるようになって、老夫人に慶太郎も、その都度お相手を云いつかる。そんな座が重なるにつれて、老夫人は一そうおしもを身近いものに思うて、足の不自由なのを口実に、良人の世話をまかせるようになる。