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おんなごころしゅうい
女心拾遺
矢田 津世子
「文学界」1936(昭和11)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,514 字 · 36 页
普段は、「慶太郎様」と呼びなれているのに、こうしたくだけた座ではきっとこの「お坊ちゃま」が出る。まるで、おどけにわざと出すようなものである。夫人にはそれが不愉快だったけれど、唐沢氏や慶太郎には耐らなく愛嬌にきこえるらしかった。
「北風」の時、夫人の手は稀らしく上首尾で、二萬一枚を待って上りである。夫人はその一枚を心おどらせて待った。二度も上ったおしもへ挑みかけるような気もちである。その待ちかねていた二萬を唐沢氏が捨てた。
「」
と叫んで手を出しかけた時、横からおしもの手がのびて牌を抑えた。
「おしもの方が先きだね」
唐沢氏が云った。
「おしもの方が早かったよ」
そして、牌をおしもの方へ押しやった。不意に老夫人が座を立った。
「あんまりです」
云うたかと思うと、嗚咽をあげながら不自由な足を曳きずって部屋を走り出た。
「お母さん、どうしたんです、お母さん」
慶太郎が追うた。
老夫人は足袋はだしのまま庭へ下りたところであった。
五
そんなことが慶太郎から横尾の方へも洩れて、おしもの縁談が急に捗ってきた。面倒なことにならぬうちに、と園子は独りで気を揉むのである。