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おんなごころしゅうい

女心拾遺

矢田 津世子

「文学界」1936(昭和11)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,514 字 · 36 页

青空文庫

先夜のことがあってからの唐沢氏は真正面に夫人と顔を合せることを避けている容子で、こうして向いあって坐っていても新聞を読むか、書見に時を過すか、眼をつむってラジオの小唄などに聞きとれている場合が多い。そんな時の老夫人は何か手持ち無沙汰で、居たたまれぬ気がした。今も、気のない返辞に話の穂を折られて困っていると、

「おしものことなら、そちらへまかせたはずだが……」

新聞から眼を離さずに云った。

「それでも、このことだけは御相談申しあげませんと……」

夫人は、木村康男と安藤久七をもち出した。そして、分が違うだろうけれど、木村がおしもを娶ってくれるなら、こんな仕合せなことはない、と自分の気もちを徐かに語った。

新聞の囲いの中でそれを聴いていた唐沢氏は、ちょっと考えている模様だったが、

「木村は過ぎる。安藤の方がよかろう」

押しつけるような声音だった。

「でも、年齢が大へんに違いますし、おしもが……」

それを云わせず、唐沢氏は、

「女中には小使いが相応だろう」

忙しく新聞を置いて、眼鏡をとりながら座を立った。

他にわけがあるにせよ、良人が安藤を推したのは、意外なことであった。