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こうじんぶつ
好人物
豊島 与志雄
「読売評論」1950(昭和25)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,567 字 · 21 页
せめて、布団ぐらい自分でたたんだらどうだとか、室の掃除ぐらい女中に手伝ったらどうだとか、一言でも言って貰ったら、わたしはどんなに感謝したか分らない。飼い猫同様に待遇されるのは、たまらないことだ。わざと、電話もかけないで、一晩すっぽかしてやったが、翌朝行ってみると、あの人はけろりとしていた。わたしのことなんか、少しも気にかけていない。悪態をついても、一向に通じない。もう泊りに来ないと言っても、眉根一つ動かさない。金がいると言えば、すぐに承知して、自分で持って来てくれる……。
ああ、わたしはどうすればよいのか。こちらの言うことは何でもしてくれるけれど、それが頼りになるということなら、いっそ、そんな頼りにはなれない方がいい。怒ったり引っ叩いたりしてくれたら、その方がどんなに頼りになることか。
あの人は時々酒を飲みに来る。一人の時もあれば、友人連れの時もある。わたしが冷淡にしようと、馴れ馴れしくしようと、そんなことは全く気に止めていないらしい。いつもにこにこしていて、心に聊かの屈託もないらしい。頭髪の手入れから服装まで、独身者らしい投げやりなところは見えるが、それでも清潔で、肉附のよい頬の血色が美しい。