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こうじんぶつ

好人物

豊島 与志雄

「読売評論」1950(昭和25)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,567 字 · 21 页

青空文庫

是非とも、後生一生の願いだと、頼んでみるのだ。

菊ちゃんは笑って、なかなか承知しなかったが、わたしは無理に押しつけた。それから数日後、菊ちゃんの報告では、高木さんはわけなく承諾したとのことだ。さすがに、わたしはかっとなった。今に見ておれ、という気になった。

月末近く、或る日、わたしはさり気なく高木さんに言ってみた。

「月を越したら、二三日、どこかへ連れていって下さらない。熱海でもいいわ。」

高木さんは眼を丸くした。

「それは、話がへんだね。君は一週間ばかり田舎へ行くし、店は休みにするとか、菊ちゃんが言っていたよ。それで、僕は菊ちゃんを熱海に連れていってやると、約束したんだが……。そんなら、三人で熱海に行こうじゃないか。」

なんのことはない。高木さんはにこにこ笑っているのだった。

「菊ちゃんと二人でいらっしゃいよ。」

「菊ちゃんと二人じゃ、どうせ面白いことはない。三人で行こうよ。」

手応えがなくて、わたしは拍子ぬけがしたが、それから急に腹が立ってきた。

「あなたの気持ち、よく分りました。わたし、今晩こそ酔っ払うわ。」

もっともっと、悪態をついてやりたかったが、言葉が出て来なかった。