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こうい

好意

豊島 与志雄

「改造」1924(大正13)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,059 字 · 40 页

青空文庫

然し吉岡君はそんなことを信じやすまい。実際のところ、僕にとってはあの八百円は大金だったのだ。方々借り歩いて、足りない所は妻の着物までも質に入れたんだ。僕はあの金を敏子さんに渡す時、どんなにか恥しい思いをした。敏子さんは受取りながら顔を赤くしたようだったが、屹度僕の様子を気の毒に思ったに違いない。僕は顔中真赤になってしまった。封筒の中の金が、二十円や十円や五円などごたごたした紙幣になってるのが、ぱっと頭に映ってきて、それを寄せ集めた時の惨めさが心にきたからだ。僕が吉岡君の前にじかに出せなかったのも、今から考えると、そんなことも原因だったような気がする。」

「それじゃ君、そんなに無理して返さなくともよかったじゃないか。」

河野はまた左手で※(「臣+頁」、第4水準2-92-25)をきゅっとやった。

「そう云えばそうなんだが……いや、そこがやはり吉岡君の誤解の重な原因だろう。僕は可なり金銭には無頓着で、随分友人の金を借りっ放しにしてるのもある。然しどういうものか、吉岡君から借りたのだけは、妙に頭にひっかかっていた。一番苦しい時で一番有難かったので、強く頭に刻み込まれているせいかも知れない。