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こうい

好意

豊島 与志雄

「改造」1924(大正13)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,059 字 · 40 页

青空文庫

どこにも助けを求め得られる人が見当らなかった。細君と恋に落ちて同棲する時、彼の方も細君の方も親戚中の反対に出逢って、今では義絶の形になっていた。また友人連中のうちでも、少し余裕のありそうな方面は皆不義理をしつくしてしまってるし、その他は彼と同様に貧乏な者か金に不自由な独身者ばかりだった。で彼は思案に余って二日間もぼんやりしてた揚句、ふと吉岡のことを思いついた。吉岡とは年令も少し遠いし境遇も非常に違うし、単に画家と美術愛好家というだけの交りで、金銭のことを持ち出せるほどの間柄ではなかったが、ただ一つ心持の上の妙な交渉を持っていた。彼が周囲の反対と将来の目当とを無視して、細君と向う見ずな同棲を決心しかけた時、偶然彼は吉岡と二人で晩飯を食って、酒の酔も少し手助って、自分の恋愛を打明けたのだった。その時吉岡は、今後の生活をどうする気か、君の芸術をどうする気か、と云って猛烈に反対した。相手の女が、教員排斥のことか何かで郷里の女学校をしくじって、東京へ無断で飛び出してきて、今では遠縁の家へ預けられてる身の上だということも、彼の反対の理由の一つだった。然し河野は屈しなかった。