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つまにしつれんしたおとこ
妻に失恋した男
江戸川 乱歩
「産業経済新聞」1957(昭和32)年10月6日、13日、20日、27日、11月3日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,695 字 · 12 页
長年刑事をやってきた経験からの勘というやつが承知しないのです。
ですから、この事件が警察の手をはなれてからも、わたしは余暇を利用して、もっと深くさぐってみようと決心しました。実はそういう抜けがけの功名みたいなことは禁じられているのですが、余暇を利用して、個人としてやるのなら構わないと思いました。
わたしは南田家の近所から聞きこみをしようと、いろいろやってみましたが、何も出てきません。みや子さんも、一週間に一度ぐらい訪ねて、無駄話をしました。しかし、ここからも何も引き出せません。
みや子さんは主人の葬式をすませると、広い家に女中とふたりで、つつましく暮らしていました。むろん南田の財産はみや子さんのものになるのです。その額は三千万円を下らないだろうということでした。
わたしは、ふと、南田が自殺の直前に琴浦という近所の歯科医院へ行ったということを思い出し、そこを訪ねてみました。事件の当時にも、「自殺するものが歯を治したって仕方がないじゃないか」と思ったので、みや子さんに聞いてみましたが、この夫妻はふたりとも歯性が悪く、たえず近所の琴浦歯科医院へかよっていて、南田は自殺の前にも虫歯が烈しく痛みだし、ともかくその痛みをとめるために歯医者へかけつけたのだろうということでした。