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つまのざ
妻の座
壺井 栄
「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页
その不体裁や不自由の中でも野村は閑子に戻ってほしい思いはなく、そこから生活の建直しをやっている。それなのに閑子はまだ自分への見極めをつけようとせず、うろうろしている。うろうろすることで何かのはずみには誰かが又野村の方へ押しやってくれるような空想をしているのかもしれぬ。女が哀れになることで同情を引こうとし、そのすきに乗じようとでもいうのか。情ないではないか閑子よ。それこそ落ちぶれた根性なのだ。――かなしく思いながらミネは、がま口から幾枚かの紙幣をとり出し、
「着物は売らないでお置きよ。どうせさきで売るにしてもそれを落ちぶれたとはいえないわ。千枝みなさい。知らん間に片っぱしから売っ払って、きれいな顔しとるじゃないの。落ちぶれてなんぞいないわ。」
「そりゃ千枝には実さんという聟もあれば、三人の子もあるもの。どっちむいてもひとりぼっちは私だけじゃないの。」
閑子は子供のようにしゃくりあげて泣きながらボストンバッグに身の回りのものをつめミネの方には目もくれずに、肩をふるようにして出ていった。とめたとてとどまる閑子ではないのを知っているミネは、だまってなすにまかせたのだが、心なぐさまるものもあるまい旅へ、泣きながら出ていった閑子を思うと、不安がしだいにひろがってきた。