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つまのざ

妻の座

壺井 栄

「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页

青空文庫

ゆるい上り坂の道が、暑さに弱いたちのミネにずっくりと汗をかかせる。あえぎながら顔の夕日を白扇でさえぎっているミネの手に、思いがけない痛さで道端のもろこしの葉がふれた。

「あっ。」

小さく声をあげ、切れた手の甲をなでている間にミネの足は忽ちおくれた。それなりミネは自分だけの足の早さになり、ゆっくりと歩いた。歩きながら自分に無関心の格好で、だんだん間隔をのばしてゆく二人の男の後姿を、感慨ぶかく眺めずにいられなかった。二人の男、その一人はミネの夫の悠吉であり、も一人の野村は近ごろ結婚したばかりのミネの妹の夫である。紺の背広の上衣を腕にひっかけて歩く悠吉の白いワイシャツと、やはり紺っぽい無地の着物を尻端しょって歩く野村の白いチヂミのステテコが、夕日にまぶしい。二人とも無帽の頭は、一人は禿げ、一人はもじゃもじゃの多い髪の毛なのだが、禿げた悠吉に劣らず、もじゃもじゃの野村の白髪の多さは、共々に五十に手の届いた年齢を語っていた。野村は作家であり、悠吉は詩人である。そして、その二人の後姿を眺めて感慨にふけるミネ自身もまた同じように小説などを書いている。三人は共々に戦後の新しい文学運動の流れの中に歩調を合せようとして、今日の集りにも加わったのであった。