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つまのざ
妻の座
壺井 栄
「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页
素直にそれを受けとったことも、子供のように唇をつき出して口紅をつけさせたことも、二人にとっては思いがけないことにちがいなかった。これまでの閑子は、口紅をつけぬ女であったのだ。ミネはふと、誰に見しょとて紅かねつける……そんな唄を思い出しながら、これからの閑子が野村との生活にどのような彩りを加えてゆくかと、不安な思いにとらわれたりもした。花嫁はミネの黒っぽい絽の着物に、貞子の帯を借りてしめた。自分の手で無造作にゆった頭も、それと分らぬほどの化粧も、婚礼にゆく女とは思えぬほどの色彩の乏しさであった。それは地のままの閑子の姿であり、昨日からそのまま続いている姿でもあった。それを野村にふさわしいものと閑子は考えていたらしかった。そのようにじみな姿の花嫁ではあったが、披露の宴に連った人々は、二十年の野村の作家生活に心をつなぎ合った、社会的にも知名の作家や画家たちが顔を並べていた。それはまたミネたちの共通の知人や友人でもあった。その席で花嫁の前途におくった貞子の言葉は、ミネの家でみた閑子はいつも何か仕事をしているのに気がついた、しかしこれからの閑子さんは、どうかあまり仕事に熱中しないで、子供さんと一しょに遊ぶお母さんになってほしい、というようなことを、貞子自身少女時代に継母と暮した経験と較べ合せて語った。