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つまのざ
妻の座
壺井 栄
「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页
「貞子さんは?」と、一しょでないのを不思議そうに聞く。
「お仕事でね。午後にはくる筈よ。」
いいながらミネは、くっくっ笑い、ひろ子の手を引っぱって段を下りながら、
「区役所よ、ここ。あなたが自信ありげに上ってゆくもんだから。」
「だって大会なんだから立派な石段の方だと思ったのよ。」
公会堂の入口はそのとなりの狭い段々であった。会場のはり札がつつましく人目をひいた。会はもう始っていた。外からくるとまるで映画館の中に入ってきたように薄ぐらく、後ろの方の人の顔はすぐには分らなかった。一番とっつきの椅子にひろ子と並んでかけると、まるでミネのくるのを待ってでもいたように前の方の席にいたらしい野村が近づいてきた。壁際の通路を少し猫背になって、ミネを見てひょいと頭をさげた。いかにもそれは、ミネをよんでいることが分ったので、ミネはすぐ立っていった。野村は目立たぬ出口の方の隅へミネをさそい、これ、といいながらいんぎんというような態度でミネに白い封筒を差出した。そしてすうっと後ろへひくようにして長くいきをすいこみ、あごをあげたような姿勢で目をぱちぱちさせてから、ひょこんと頭を下げた。