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つまのざ

妻の座

壺井 栄

「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页

青空文庫

よく考えずに作家の妻になったのだ。女としての心の発展をへずに閑子は、教壇の上でつかったものさしを、家庭にもちこんだのだ。どうしてそれが通用しよう。野村の生れや育ちにだけたよって、作家である現在の野村を究めなかったことは、誰も彼もうかつであったというしかない。その限りでは閑子をせめることは出来ない。にも拘わらず、誰よりも大きな打撃をうけたのは女の閑子なのだ。しかも閑子は投げ出された自分の羽目に、今もって納得できないでいる。納得できる女であったなら、投げ出されずにもすんだろうに。野村が前の妻との間に二十年間積み重ねた愛情をすら、自然なものとして理解することが出来ないほど、閑子は人間の心の世界にうといのだ。野村の日記をみて腹を立てて帰ってきた日、彼女はなりふり構わず歯ぎしりをしながら野村をののしった。

「立派な人だの、信用出来る人だのと姉さんはいったけどさ、野村のどこが立派なの。あんなにうまいこといってから、一日も早くきてくれっていったんじゃないの。それなのに何でしょう。前の嫁が忘れられないで、やれ貴族のように気高いだの、死ぬまできれいな目をしてたの、あのりこうさは文学にも政治にも通じるだの、あんな気高さはどこから生れていたのだろうのって書いてある。