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つまのざ
妻の座
壺井 栄
「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页
はずれるのが当り前だ。
「ね、閑ちゃん、野村さんに肩をもつわけではないけどね、日記をかくのは野村さんの自由なのよ。まして作家じゃないの。書くことはお茶の子さ。考えることだって、普通の人よりは細かいさ。普通の人ならどんなことを考えても、それを日記にかく人はめったにないわね。それを正直にかくところが作家じゃないの。私だってかくわ。私のノートには悠吉の悪口がうんとかいてあってよ。口でいえなかったことがかいてあるわよ。あいそをつかして逃げ出したいとかいたこともあるし、おのろけをかいてもあるわ。日記はごまかせない心の記録なのよ。だからさ、悠吉がもし、恋がしたいと日記にかいてあっても、私はそれをどうこうはいえない。それがいやならとび出すしかないし、とび出せないなら恋のしたい男のその精神も一しょに自分の方へ抱えこまなくちゃ。私ならそうする。」
こんなことまでいわねばならない閑子の幼稚さをぎりぎりと感じながら、いった言葉はミネを笑いださせてしまった。白髪頭の自分たち夫婦のありさまを、鏡をみるように思い浮べたからである。しかし、笑いながら走馬灯のように走り去ったのは、二十幾年の夫婦の歴史の中での女としての苦しかった思い出である。