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つまのざ

妻の座

壺井 栄

「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页

青空文庫

おやすみなさい」と結んであった。

ミネはある感動をもって、この手紙をくりかえし三度ほど読んだ。こんな重大なことを、誰よりも先に相談されたことへの喜びにも似た気持、妻のない家庭のごったかえした押入の中を、そっくり襖をはずして見せられたような、率直な野村の手紙はミネの心を打ち、ミネはこれまで持っていた彼への他人行儀をこの一通の手紙で捨ててしまったほど、親しい気持で野村を考えた。旅行は、終戦後初めての総選挙に立候補をすすめられて郷里へ帰っている悠吉のために、ミネも一役を買わねばなるまいという、ミネにとっては最も苦手な種類の旅行目的であった。そのほかにも、もう一つ目的はあった。それは郷里にいる妹の閑子を東京へ引っぱってくることだった。終戦直後に、遠縁の孤児の赤ん坊を引きとって育てねばならない回り合せになっていたミネは、子育ての忙しさまでが加わり悲鳴をあげていた。それを、閑子に助けて貰う魂胆なのであった。閑子は丙午年生れの女であった。そのために受ける不当な迫害と取っ組んで、ミネにいわせれば必要以上にまで青春を葬り、身一つをただ潔白に守り通すことで年をとってしまったような女だった。