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つまのざ

妻の座

壺井 栄

「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页

青空文庫

川原にどんな知恵があるだろう。川原の家は野村のすぐ近くだった。野村が伝えてあったらしく兵隊服をきて若く見える川原は「ああ。」とうなずきながら三人を迎えた。野村は一ことも語らず、ミネだけがしゃべるようなことになった。ミネは川原に気を許したのか、涙をこぼしながら感情を交えててん末を告げた。

「器量がどうのってことは、そんなことは問題じゃないがね、とにかく野村はこのさい、はっきりした態度がいるね。そうだ、鴎外にこんな場合の男の態度をかいたのがあったな。」

川原は書斎からぶ厚い鴎外の著書を二三冊持ち出してきて、ゆうゆうと頁をくった。上質の紙はぱさっぱさっと歯ぎれのよい音を立てて色の黒い川原の指にあやつられている。かなり長い時間がたっても目ざす文章がみつからぬらしく、頁をあとさきにくりながら、

「つまりね、こんな場合にいさぎよく非難の矢面に立つ覚悟で、責任をもってことを処理するか、それが出来ないときは、一生を棒にふってでも妻とともにその中に埋没してしまうか、二つに一つだというんだね。しかし、これは参考だよ。われわれの場合は一生を棒にふるというより、何とかして局面を打開することを考えなくちゃならんと思うんだがね。