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むすめ
娘
岡本 かの子
「婦人公論」1939(昭和14)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,846 字 · 16 页
お咲はすぐ傍に室子の母親のいるのに気付き、普段に戻って、からからと笑った。涙も襦袢の袖口で一寸抑えて仕舞ったが、蓑吉と同じ炬燵にいた室子は、この光景を見て、何とも仕様のない、人間の不如意の思いが胸に浸み入った。
だが暫くすると蓑吉は、また今度は、ちょっとお咲の顔を見ては、やっぱり、菓子袋へ手を出していた。
そうかと云って室子の見る蓑吉は、手の中の珠のように可愛がる室子の両親に特になつくという訳でもなかった。何か一人で工夫して、一人で梯子段の下で、遊んでいるような子供だった。
寮では、今朝、子供の食べるような菓子は切らしていた。だが蓑吉は一わたり玩具をいじり廻して仕舞うと鼻声になり
「何か呉れない。お菓子」
と立上って来た。
室子は仕方なく蓑吉を膝に凭せながら、午前九時頃の明るさを見せて来た隅田川の河づらを覗いた。
「蓑ちゃん、長命寺のさくら餅屋知ってる」
「ああ知ってるよ。向う河岸の公園出てすぐだろ」
「じゃ、一人で白鬚の渡し渡って買ってらっしゃい。行ける?」
蓑吉は、この冒険旅行に異常な情熱を沸かしたらしい。いきなり室子の膝から離れると
「行けなくってえ――あんなとこ」