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ふじんとぶんがく
婦人と文学
宮本 百合子
※「作品について」参照
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,792 字 · 351 页
信州のその一つの村の中で、軍関係にあった人が、どんなにあわてて、貯金通帳までを焼きすてたか。どんなに流言がとび、どんなに人々が、「誰がかえったかよりも何を貰って来たかに興がった」という現実が記録されている。深夜に急に還って来た弟の素振りの腑におちなさ「あゝわが弟、数年間なる軍隊生活にて何を覚えしにや、悟りしにや」「瘠せて目が落ち、疲れたる寝顔は、我が弟の顔にはあらで『現代日本青年』という題の塑像なり。終戦以来、前途に燃ゆる火ばかり見つめて来りし自分は、ガタリと今石に躓きたる思いがする。足許は暗し、暗し。彼方は明し。」こんな時勢に、真面目に固いことばかりやっていられるか、という弟に対して思わず激しく云い争うが、遂に黙ってそこに転がり、いつか微かな寝息を立てている弟の顔を見下して、作者の胸に湧き立った感慨は、読者をうつ真実性をもっている。「終戦日誌」は小説に描かれるべきたくさんの、当時らしい典型的な光景と人事にみちた一冊のスケッチ帳の趣をもっている。
久しぶりで検閲をおそれず思うとおりにものが書ける。この激しい歓びは、作者の歓びと雀躍とが大きければ大きいほど、却って作者を舌たらずにし、感動に溺れさせる。