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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

「馬鹿!」

と叱して、調子を弛めて、

「も休み休み言え。失礼な、他人の壁訴訟を聞いて、根も無い事を疑うような酒井だと思っているか。お前がその盲目だから悪い事を働いて、一端己の目を盗んだ気で洒亜々々としているんだ。

先刻どうした、牛込見附でどうしたよ。慌てやあがって、言種もあろうに、(女中が寝ていますと失礼ですから。)と駈出した、あれは何の状だ。婆が高利貸をしていやしまい、主人の留守に十時前から寝込む奴がどこに在る。

また寝ていれば無礼だ、と誰が云ったい。これ、お前たちに掛けちゃ、己の目は暗でも光るよ。飯田町の子分の内には、玄関の揚板の下に、どんな生意気な、婦の下駄が潜んでるか、鼻緒の色まで心得てるんだ。べらぼうめ、内証でする事は客の靴へ灸を据えるのさえ秘しおおされないで、(恐るべき家庭でごわります。)と道学者に言われるような、薄っぺらな奴等が、先生の目を抜こうなぞと、天下を望むような叛逆を企てるな。

悪事をするならするように、もっと手際よく立派に遣れ。見事に己を間抜けにして見ろ。同じ叱言を云うんでも、その点だけは恐入ったと、鼻毛を算まして讃めてやるんだ。