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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

」

小芳はひたと、酒井の肩に、前髪の附くばかり、後に引添うて縋り状に、

「お帰んなさるの。」

「謹が病気よ。」

と自分で雨戸を。

「それは不可ませんこと。」と縁側に、水際立ってはらりと取った、隅田の春の空色の褄。力なき小芳の足は、カラリと庭下駄に音を立てたが、枝折戸のまだ開かぬほど、主税は座をずらして、障子の陰になって、忙く巻莨を吸うのであった。

二時ばかり過ぎてから、主税が柏家の枝折戸を出たのは、やがて一時に近かったろう。その時は姉さんはじめ、綱次ともう一人のその民子と云う、牡丹の花のような若いのも、一所に三人で路地の角まで。

「お互に辛抱するのよう。」と酒気のある派手な声で、主税を送ったのは綱次であった。ト同時に渠は姉さんと、手をしっかりと取り合った。

時に、寂りした横町の、とある軒燈籠の白い明と、板塀の黒い蔭とに挟って、平くなっていた、頬被をした伝坊が、一人、後先をして、密と出て、五六歩行過ぎた、早瀬の背後へ、……抜足で急々。

「もし、」

「…………」

「先刻アどうも。よく助けて下すったねえ。」

と頬かむりを取った顔は……礼之進に捕まった、電車の中の、その半纏着。