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おんなけいず
婦系図
泉 鏡花
「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页
と直ぐにまた眉を顰めて、談じつけるような調子に変って、
「酒井さん、早瀬は、ありゃ罪人だね、我々はその名を口にするさえ憚るべき悪漢ですね。」
とのッそり手を伸ばして、卓子の上に散ばった新聞を撫でながら、
「貴娘、今日のA……新聞を見んのですか。」
一言聞くと、颯と瞼を紅にして、お妙は友染の襦袢ぐるみ袂の端を堅く握った。
「見ませんか、」
と問返した時、教頭は傲然として、卓子に頤杖を支く。
「ええ、」とばかりで、お妙は俯向いて、瞬きしつつ、流眄をするのであった。
「別に、一大事に関して早瀬は父様の許へ、頃日に参った事はないですかね。或は何か貴娘、聞いた事はありませんか。」
小さな声だったが判然と、
「いいえ。」と云って、袖に抱いた風呂敷包みの紫を、皓歯で噛んだ。この時、この色は、瞼のその朱を奪うて、寂しく白く見えたのである。
「行かん筈はないでしょうが、貴娘、知っていて、まだ私の前に、秘すのじゃないかね。」
「存じませんの。」
と頭を掉ったが、いたいけに、拗ねたようで、且つくどいのを煩さそう。
「じゃ、まあ、知らないとして。それから、お話するですがね。早瀬は、あれは、攫徒の手伝いをする、巾着切の片割のような男ですぞ!」