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おんなけいず
婦系図
泉 鏡花
「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页
やっぱり私が居た時分のように、お玄関の書生さんにしてお貰いなさいよ。
ああ、これは、」
と片頬笑みして、
「余り上等な墨ではありませんな。」
「可いわ! どうせ安いんだわ。もう私がするから可くってよ。」
「手が墨だらけになりますと云うのに。貴娘そんな邪険な事を云って、私の手がお身代に立っている処じゃありませんか。」
「それでもね、こうやってお召物を持っている手も、随分、随分(と力を入れて、微笑んで、)迷惑してよ。」
「相変らずだ。(と独言のように云って、)ですが、何ですね、近頃は、大層御勉強でございますね。」
「どうしてね? 主税さん。」
「だって、明後日お持ちなさろうという絵を、もう今日から御手廻しじゃありませんか。」
「翌日は日曜だもの、遊ばなくっちゃ、」
「ああ日曜ですね。」
と雫を払った、硯は顔も映りそう。熟と見て振仰いで、
「その、衣兜にあります、その半紙を取って下さい。」
「主税さん。」
「はあ、」
「ほほほほ、」とただ笑う。
「何が、可笑しいんです。え、顔に墨が刎ねましたか。」
「いいえ、ほほほほ。」
「何ですてば、」
「あのね、」
「はあ。」
「もしかすると……」
「ええ、ええ。