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おんなけいず
婦系図
泉 鏡花
「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页
礼之進はまた額に手を当て、
「いや、何とも。私大願成就仕りましたような心持で。お庇を持ちまして、痘痕が栄えるでごわりまする。は、はは、」
道学先生が、自からその醜を唱うるは、例として話の纏まった時に限るのであった。
五十六
望んでも得難き良縁で異存なし、とあれば、この縁談はもう纏ったものと、今までの経験に因って、道学者はしか心得るのに、酒井がその気骨稜々たる姿に似ず、悠然と構えて、煙草の煙を長々と続ける工合が、どうもまだ話の切目ではなさそうで、これから一物あるらしい、底の方の擽ったさに、礼之進は、日一日歩行廻る、ほとぼりの冷めやらぬ、靴足袋の裏が何となく生熱い。
坐った膝をもじもじさして、
「ええ、御令室が御快諾下されましたとなりますると、貴下の思召は。」
ちっとも猶予らわずに、
「私に言句のあろう筈はありません。」
「はあ、成程、」と乗かかったが、まだ荷が済まぬ。これで決着しなければならぬ訳だが……
「しますると、御当人、妙子様でごわりまするが。」
「娘は小児です。箸を持って、婿をはさんで、アンとお開き、と哺めてやるような縁談ですから、否も応もあったもんじゃありません。