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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

礼之進、苦り切った顔色で、

「へへい、それはまた、どういう次第でごわりまするか、ただ御門生と承りましたが、何ぞ深しき理由でもおありなさりますと云う……」

「理由も何にもありません。早瀬は妙に惚れています。」と澄まして云った、酒井俊蔵は世に聞えたる文学士である。

道学者はアッと痘痕、目を円かにして口をつぐむ。

「実の親より、当人より、ぞッこん惚れてる奴の意向に従った方が一番間違が無くって宜しい。早瀬がこの縁談を結構だ、と申せば、直ぐに妙を差上げますよ。面倒は入らん。先生が立処に手を曳いて、河野へ連れてお出でなすって構いません。早瀬が不可い、と云えば、断然お断りをするまでです。」

黙ってはいられない。

「しますると、その、」

と少し顔の色も変えて、

「御門生は、妙子様に……」と、あとは他人でもいささか言いかねて憚ったのを、……酒井は平然として、

「惚れていますともさ。同一家に我儘を言合って一所に育って、それで惚れなければどうかしているんです。もっともその惚方――愛――はですな、兄妹のようか、従兄妹のようか、それとも師弟のようか、主従のようか、小説のようか、伝奇のようか、そこは分りませんが、惚れているにゃ違いないのですから、私は、親、伯父、叔母、諸親類、友達、失礼だが、御媒酌人、そんなものの口に聞いたり、意見に従ったり