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おんなけいず
婦系図
泉 鏡花
「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页
「結構な御住居でございますな。」
ここで、つい通りな、しかも適切なことを云って、部屋へ入ると、長火鉢の向うに坐った、飾を挿さぬ、S巻の濡色が滴るばかり。お納戸の絹セルに、ざっくり、山繭縮緬の縞の羽織を引掛けて、帯の弛い、無造作な居住居は、直ぐに立膝にもなり兼ねないよう。横に飾った箪笥の前なる、鏡台の鏡の裏へ、その玉の頸に、後毛のはらはらとあるのが通って、新に薄化粧した美しさが背中まで透通る。白粉の香は座蒲団にも籠ったか、主税が坐ると馥郁たり。
「こんな処へお通し申すんですから、まあ、堅くるしい御挨拶はお止しなさいよ。ちょいと昨夜は旅籠屋で、一人で寂しかったでしょう。」
と火箸を圧えたそうな白い手が、銅壺の湯気を除けて、ちらちらして、
「昨夜にも、お迎いに上げましょうと思ったけれど、一度、寂しい思をさして置かないと、他国へ来て、友達の難有さが分らないんですもの。これからも粗末にして不実をすると不可ないから………」
と莞爾笑って、瞥と見て、
「それにもう内が台なしですからね、私が一週間も居なかった日にゃ、門前雀羅を張るんだわ。手紙一ツ来ないんですもの。今朝起抜けから、自分で払を持つやら、掃出すやら、大騒ぎ。