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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

と、頓興な女房の声がする。

「家賃は幾干でしょうか。」

「ああ、貞造さんの家の事かね。」

余り思切った夫人の挙動に、呆気に取られて茫然とした主税は、(貞造。)の名に鋭く耳をそばだてた。

「空家ではござりませぬが。」

「そう、空家じゃないの、失礼。」

と肩の暖簾をはずして出たが、

「大照れ、大照れ、」

と言って、莞爾して、

「早瀬さん、」

「…………」

「人のことを、貴族的だなんのって、いざ、となりゃ私だって、このくらいな事はして上げるわ。この家じゃ、貴下だって、借りたいと言って聞かれないでしょう。ちょいと、これでも家の世話が私にゃ出来なくって?」

さすがに夫人もこれは離れ業であったと見え、目のふちが颯となって、胸で呼吸をはずませる。

その燃ゆるような顔を凝と見て、ややあって、

「驚きました。」

「驚いたでしょう、可い気味、」

と嬉しそうに、勝誇った色が見えたが、歩行き出そうとして、その茅家をもう一目。

「しかし極が悪かってよ。」

「何とも申しようはありません。当座の御礼のしるし迄に……」と先刻拾って置いた菫色の手巾を出すと、黙って頷いたばかりで、取るような、取らぬような、歩行きながら肩が並ぶ。