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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

」

「空いてる! こう、たった今座敷はねえ、おあいにくだと云ったじゃねえか。気障は言わねえ、気障な事は云わねえから、黙って早く燗けて来ねえよ。」

いいがかりに止むを得ず、厭な顔して、

「じゃ、御酒を上るだけになすって下さいよ、お肴は?」

「肴は己が盤台にあら。竹の皮に包んでな、斑鮭の鎌ン処があるから、そいつを焼いて持って来ねえ。蔦ちゃんが好だったんだが、この節じゃ何にも食わねえや、折角残して帰っても今日も食うめえ。」

と独言になって、ぐったりして、

「媽々に遣るんじゃ張合が無え。焼いて来ねえ、焼いて来ねえ。」

女中は、気違かと危んで、怪訝な顔をしたが、試みに、

「そして綱次さんを掛けるんですか。」

「うんや、今度はこっちがおあいにくだ。ちっとも馴染でも情婦でもねえ。口説きように因っちゃ出来ねえ事もあるめえと思うのよ。もっとも惚れてるにゃ惚れてるんだ。待ちねえ、隣の室で口説いてら、しかも二人がかりだ。」

「ちょっと、」

と留めて姉さんは興さめ顔。

「こっちは一人だ、今に来たら、お前も手伝って口説いてくんねえ。何だ、何だ、(と聞く耳立てて)純潔な愛だ。けつのあいたあ何だい。