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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

目も放さず、早瀬がそれを凝と視める内に、濁ったようなその灯影が、二三度ゆらゆらと動いて、やがて礫した波が、水の面に月輪を纏めた風情に、白やかな婦の顔がそこを覗いた。

門の扉が開くでもなしに……続いて雪のような衣紋が出て、それと映合ってくッきりと黒い鬢が、やがて薄お納戸の肩のあたり、きらりと光って、帯の色の鮮麗になったのは――道子であった。

門に立忍んで、密と扉を開けて、横から様子を伺ったものである。

一目見ると、早瀬は、ずいと立って、格子を開けながら、手招ぎをする。と、立直って後姿になって、AB横町の左右をす趣であったが、うしろ向きに入って、がらがらと後を閉めると、三足ばかりを小刻みに急いで来て、人目の関には一重も多く、遮るものが欲しそうに、また格子を立てた。

「ようこそ、」と莞爾して云う。

姉夫人は、口を、畳んだ手巾で圧えたが、すッすッと息が忙しく、

「誰方も……」

「誰も。」

「小使さんは?」

ともう馴染んだか尋ね得た。

「あれは朝っから、貞造の方へ遣ってあります。目の離せません容態ですから。」

「何から何まで難有う存じます……一人の親を……済みませんですねえ。