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おんなけいず
婦系図
泉 鏡花
「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页
――
蛍
四十六
「己が分るか、分るか。おお酒井だ。分ったか、しっかりしな。」
酒井俊蔵ただ一人、臨終のお蔦の枕許に、親しく顔を差寄せた。次の間には……
「ああ、皆居るとも。妙も居るよ。大勢居るから気を丈夫に持て! ただ早瀬が見えん、残念だろう、己も残念だ。病気で入院をしていると云うから、致方が無い。断念めなよ。」
と、黒髪ばかりは幾千代までも、早やその下に消えそうな、薄白んだ耳に口を寄せて、
「未来で会え、未来で会え。未来で会ったら一生懸命に縋着いていて離れるな。己のような邪魔者の入らないように用心しろ。きっと離れるなよ。先生なんぞ持つな。
己はこういう事とは知らなんだ。お前より早瀬の方が可愛いから、あれに間違いの無いように、怪我の無いようにと思ったが、可哀相な事をしたよ。
早瀬に過失をさすまいと思う己の目には、お前の影は彼奴に魔が魅しているように見えたんだ。お前を悪魔だと思った、己は敵だ。間をせいたって処女じゃない。真逢いたくば、どんなにしても逢えん事はない。世間体だ、一所に居てこそ不都合だが、内証なら大目に見てやろうと思ったものを、お前たちだけに義理がたく、死ぬまで我慢をし徹したか。