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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

地位も名誉も段違いの先生だ。酒井俊蔵を夫と思え、情夫と思え、早瀬主税だと思って、言いたいことを言え、したいことをしろ、不足はあるまい。念仏も弥陀も何も要らん、一心に男の名を称えるんだ。早瀬と称えて袖に縋れ、胸を抱け、お蔦。……早瀬が来た、ここに居るよ。」

と云うと、縋りついて、膝に乗るのを、横抱きに頸を抱いた。

トつかまろうとする手に力なく、二三度探りはずしたが、震えながらしっかりと、酒井先生の襟を掴んで、

「咽喉が苦しい、ああ、呼吸が出来ない。素人らしいが、(と莞爾して、)口移しに薬を飲まして……」

酒井は猶予らわず、水薬を口に含んだのである。

がっくりと咽喉を通ると、気が遠くなりそうに、仰向けに恍惚したが、

「早瀬さん。」

「お蔦。」

「早瀬さん……」

「むむ、」

「先、先生が逢っても可いって、嬉しいねえ!」

酒井は、はらはらと落涙した。

おとずれ

四十八

病室の寝台に、うつらうつらしていた早瀬は、フト目が覚めたが……昨夜あたりから、歩行いて厠へ行かれるようになったので、もう看護婦も付いておらぬ。毎晩極ったように見舞ってくれた道子が、一昨日の夜の……あの時から、ふッつり来ないし、一寝入りして覚めた今は、昼間、菅子に逢ったのも、世を隔てたようで心寂しい。