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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

お蔦さん……」

とまた声が曇って、黙って差俯向いた主税を見て、

「あの、私ねえ、いろいろ沢山話があるわ。入院していらっしゃる、と云うから、どんなに悪いんだろうと思ったら、起きていられるのね。それだのに、まあ……お蔦さん……私……貴下に叱言を言うこともあるけれど、大事な用があるから、それを済ましてから緩りしましょうね。」

と甘えるように直ぐ変って、さも親しげに、

「小刀はあって?」

余り唐突な問だったから、口も利けないで……また目をる。

「では、さあ、私の元結を切って頂戴。」

「元結を? お嬢さんの。」

「ええ、私の髪の、」

と、主税が後へずらないとその膝に乗ったろう、色気も無く、寝台の端に、後向きに薄いお太鼓の腰をかけると、緋鹿子がまた燃える。そのままお妙は俯向いて、玉のごとき頸を差伸べ、

「お切んなさいよ、さあ、早くよ。父上も知っていてよ、可いんだわ。」

と美しく流眄に見返った時、危なく手がふるえていた。小刀の尖が、夢のごとく、元結を弾くと、ゆらゆらと下った髪を、お妙が、はらりと掉ったので、颯と流れた薄雲の乱るる中から、ふっと落ちた一握の黒髪があって、主税の膝に掛ったのである。