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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

ちょっと、教員室で立話しをしたんだから、委いことは追てとして、その日は帰った。

すると昨日、母様がここへ訪ねて来たろう。帰りがけに、飯田町から見附を出ようとする処で、腕車を飛ばして来た、母衣の中のがそれだッたって、矢車の花を。」

と言いかけて、床の間を凝と見て、

「ああ、これだこれだ。」

ひょいと腰を擡げて、這身にぬいと手を伸ばした様子が、一本引抜きそうに見えたので、

「河野!」

「ええ、」

「それから。おい、肝心な処だ。フム、」

乗って出たのに引込まれて、ト居直って、

「あの砂埃の中を水際立って、駈け抜けるように、そりゃ綺麗だったと云うのだ。立留って見送ると、この内の角へ車を下ろしたろう。

そろそろ引返したんです、母様がね。休んでいた車夫に、今のお嬢さんは真中の家へですか。へい、さようで、と云うのを聞いて帰ったのさね。」

と早口に饒舌って、

「美人だねえ。君、」とゆったり顔を見る。

「ト遣った工合は、僕が美人のようだ、厭だ。結婚なんぞ申込んじゃ、」と笑いながら、大に諷するかのごとくに云って、とんと肩を突いて、

「浮気ものめ。」

「浮気じゃない、今度ばかしゃ大真面目だがね、君、どうかなるまいか。